長年企業で、蒸気タービンの研究開発・設計に携わり、技術上の問題点の把握や分析、発明、権利化などの経験をされて開業された加藤先生。一人弁理士事務所という特徴を活かして、質の高いサービスを提供されています。そんな先生に事務所の特徴や今後についてなどインタビューさせていただいた。
先生が弁理士になったきっかけは?
ひとことで言いますと、弁理士は最先端の技術を真っ先に知ることができること、そして発明を権利化するという仕事に惹かれたからです。私は大学院修士課程を卒業後はメーカに就職し、長くそこで働いていました。
大学院に進学されたのですか?
はい。大学卒業後大学院に進学することにしたのは、大学で学んだ流体力学という学問に興味があり、流体力学の中でも特に空気力学(エアロ・ダイナミックス)の研究をしたいという気持ちがあったからです。また、大学院で修士号を取ってエンジニアになれば技術指導などの仕事で世界中の国々に行けるだろう、という当時は世間知らずの夢を持っていました。もちろん、工学系の修士号を取得して企業に就職しても、エンジニアとして海外に出張する機会に恵まれる人はあまりいません。ほとんどないと言ってもいいでしょう。これは長年会社勤めをして周りを見て分かったことです。いってみれば、叶わぬ夢を抱いていたのです。
その夢は叶いましたか?
夢の一部は入社4年目に実現しました。私が就職した会社はドイツの会社と技術提携していましたが、蒸気タービンの翼形状(エアフォイル・プロファイル)についてドイツの会社と共同開発をすることになったのです。そして会社からドイツの会社に研究開発要員として技術者を派遣することになり、私が行くことになりました。ドイツの会社では1年3か月ミットアルバイター(協力者)として主に実験を手伝っていました。その後も商談や技術説明のため海外出張をする機会が度々あり、北半球の主な国々へは出張しました。今、振り返ってみると学生時代の夢が叶ったといえるでしょう。
それでは、弁理士になろうと思った直接的な動機は?
ドイツ出張から帰国後、私は会社勤めについて疑問をもつようになったのです。これはドイツの会社での勤務経験が影響しているかもしれませんね。会社勤めでは一生懸命仕事をしても会社の利益にどれだけ貢献するものかが分からなかったことと、努力や能力に見合うポジションやサラリーなのかという不満もありました。そんなときに、図書館で「弁理士、ただいま仕事中」(池内寛幸著)という本を見つけました。その本では、内容は今ではあまり思い出せませんが、弁理士業がとても魅力のある職業であるように描かれていました。しかし当時は会社でのエンジニアとしての仕事もやり甲斐があったので、すぐに弁理士の受験勉強をしようとは考えませんでした。
このときからさらに10数年が経過したときに、書店で「弁理士になる最短合格法」(正林真之著)という本が目に留まりました。この本の中で著者は、弁理士がよい仕事であることを、知人の弁護士の話として、子どもを失った人が訴えてきたときの被告の代理人として子どもの過失を指摘して損害賠償額を低くすることができたとしても決して気持ちのよいものではないと言っていたこと、これに対して弁理士は国家試験1種を通ったエリート公務員に対して全力で戦えばよい、と述べられていました。このくだりを読んだときに私は、「これだ!」と思ったのです。
これに刺激を受けて数年後、子供に手がかからなくなったことを期に会社勤めをしながら弁理士試験の受験勉強を始めました。そして4年後に弁理士試験に合格することができました。
加藤国際特許商標事務所の特徴って?
事務所(特許事務所、弁理士法人、企業、大学等を含む)の約70%は一人弁理士の事務所です。当事務所も4年前(2017年5月)に一人弁理士事務所として開業しました。将来的には人をいれていきたいと思いますが、そのためにはコンスタントに仕事をいれていかなくてはなりません。一般企業から特許業界に入る弁理士の多くは知財部門に属しているため、退職後も会社から仕事の依頼があります。しかし、私は会社を退職するまで事業部にいましたので会社からの仕事の依頼がありません。弁理士一人で仕事をコンスタントに入れていくのはけっこう大変です。市場は需要と供給の均衡で成立しますが、仕事量と弁理士の人数との関係を考えてみると過去20年間で弁理士の数は2倍になりました。しかし、特許出願の数は30%減少しています。
弁理士の仕事量が相対的に減少しているのですね。
はい、そうです。仕事をコンスタントに入れるのには、大企業を顧客にすることですが、年間100件も200件も出願する大企業は、知財部門の負担を増やさないように大きな事務所に一括して任せています。当所のような小規模の事務所に仕事をご依頼下さる中小企業やベンチャーの特許出願件数は年間1件~数件ですので、コンスタントな負荷を維持するためには数多くの企業さんから依頼を受けないと経営的にはなりたたないです。
それでは一人弁理士事務所のアピールポイントは?
一つのご依頼に対して集中できるということです。特許事務所の収益構造は、固定費率が高く、依頼内容に対応した一定の手数料を得ているということです。一般企業の場合には売上高が増大することにより利益が倍増したりしますが、特許事務所の場合にはそうなりません。大きな事務所では賃貸料の他、IT業務や経理業務といった間接業務の固定費もかかります。このため一つの出願業務を最短の時間で行うことが求められます。このために、担当させる弁理士の専門分野を区分して特定分野に特化した明細書のみ作成させる事務所もあると聞きます。
当事務所は、ロケーションが駅から近いとはいえませんが、その分固定費のことをあまり気にしなくて済むので、依頼された仕事の完成度を高めることに集中して業務を行うことができます。業務範囲としては、特許・意匠・商標の権利化と権利の保護およびその活用についての相談および代理業務を行っています。
ところで、先生が特許と関わるようになったのはいつから?
私が特許や特許出願と関わるようになったのは会社勤めのときからです。会社勤め時代には自らが発明者となって代理人である特許事務所経由で出願していました。会社を退職後にはその特許事務所に就職して外国から日本に出願された特許のドイツ語の明細書を日本語に翻訳して出願する仕事を10か月やりました。
その後、大手の特許事務所に転職して、外国から日本に出願された特許の英語の明細書の日本語翻訳および出願・外国から日本に出願された特許および日本国内で出願された特許の中間処理・国内特許出願の明細書の作成を1年4か月行った後、独立開業しました。
今後の弁理士業界の将来について教えてください。
国内の特許出願が減少傾向にある一方、弁理士の数は増加しているので特許事務所間の競争がどんどん激しくなります。その結果、弁理士は切磋琢磨することになるので、全体的に出願書類の質(クオリティー)が上がっていくと思います。
特許出願件数が減少している理由の一つは、20年ほど前までは各企業とも出願件数を競っていましたが最近は権利化する見込みのある質の良い発明のみ出願するために出願数を絞っているからです。
我が国の全企業の99.7%は中小企業ですが、出願件数の多くは大企業のものであって中小企業は少ないのが現状です。中小企業からの出願を増やしてゆくことにより市場を維持できると思っています。日本弁理士会関東会では、主に関東地方の中小企業を対象として様々な啓蒙活動を行っているので、中小企業からの特許出願が増加することを期待しています。