社会保険労務士と弁理士の資格を取得しており、労務管理と知的財産管理の観点から企業の生産性向上のお手伝いをされている永田先生。社労士と弁理士のダブルライセンスの先生はとても珍しく、その他にも多くの資格を取得されています。そんな先生に事務所の特徴や今後についてなどインタビューさせていただいた。
【保有資格】
特定社会保険労務士
弁理士
一級知的財産管理技能士
行政書士
通関士
メンタルヘルス・マネジメント検定第Ⅰ種(マスターコース)
知的財産アナリスト(特許・コンテンツ)
年金アドバイザー2級
精神対話士
【受賞歴】
年金アドバイザー2級検定 全国第6位(2010年)
東京都・多摩労働カレッジ論文 奨励賞(2018年)
先生が社会保険労務士になったきっかけは?
私は元々マスコミ業界で長年働いていました。決して労働環境が楽とは言えないところだったので、働いているうちにいろいろと労働環境に対する問題意識が芽生えてきました。「これから先もずっとこの働き方でいいのか」と考えていく中で、労働法令への関心が強くなり、あらためて勉強を始めたことが、社会保険労務士になったきっかけです。
社会保険労務士の資格を取得し、今後起業することを考えたときに、番組制作という特殊な現場しか知らないのが不安になりました。それで管理系の部署に異動させてもらい、その異動先の部署が著作権部でした。大学時代は法学部で知的財産権法(当時は無体財産権法と呼ばれていました)を学んでおり、比較的得意な科目だったのですが、当時からは法律も相当改正されているので、著作権部配属をきっかけに再度著作権法を勉強し直すことにしました。その当時はまだ弁理士の資格を取ろうという考えはなく、まずは力試しのつもりで知的財産管理技能検定を受検してみることにして、知的財産管理技能士3級に合格しました。出版系の会社に転職後も勉強を続け、知的財産管理技能士2級、続いて1級の3部門に順次合格していき、最終的に弁理士試験に挑戦して資格を取得しました。
ひばりES社労士オフィスの特徴って?
社会保険労務士と弁理士の資格を取得しているので、コンサルティングに際しては労務管理と知的財産の観点から生産性の向上を提案したいと考えております。例えば、企業が生産性を向上させようとした際に、人件費カットだけを考えてしまうことがあります。仮に一部の業務をAI化するなどして従業員をリストラできるところがあったとしても、人がやらなければならない仕事のコアになる部分は残りますが、残った業務を担当する人がAI化する前は従業員間でやり取りしながら進めることができた業務が、AI化により人間同士のコミュニケーションが取れなくなったことで、却って効率が下がったりミスが生じることも十分想定されると思うんです。人を減らせば確かに人件費は抑えられますが、生産性が本当に上がるかどうかは疑問です。ですので安易に人件費カットに走るのではなく、労務管理の最適化と並行して事業の付加価値などを増大させることで生産性向上を目指すお手伝いをしています。
当事務所の屋号名で掲げているESは「Employee Satisfaction」の略で、訳すと「従業員満足」となります。「従業員満足」とはただ単に賃金アップや労働負荷の軽減だけではなく、仕事のやりがいや、自分自身が関わっている事業がお客様や世の中の役に立っていることへの自覚からくる満足感、という概念も含むと捉えています。物理的・心理的に安心な就業環境の下、従業員がその職場で誇りをもって働き続けたいと思ってもらえるように、従業員満足を重視した、職場環境の改善・組織力向上のためのアドバイスをさせていただいています。
先進技術で特許の取得などを目指す研究開発部門を持つ会社や、アニメーションやゲームソフトなどを制作する会社などでは、自社が保有する知財を活用して創作活動を行っている現場で研究職やクリエイターとして創造的な業務を担当する従業員がいますが、彼らが身体を壊したり、心を病んでしまったりするような劣悪な職場環境では、良い発明やコンテンツは生まれません。そういう側面からも、労働時間管理やメンタルヘルス対策は労務管理において非常に重要なことだと言えます。
また、知的財産法である特許法や著作権法にはそれぞれ1つだけ、社会保険労務士がよく携わっている「就業規則」に関わる法律条文があります。職務発明規程、職務創作規程などと言われますが、社員が業務として発明やコンテンツを創造した際に、創作物の特許権や著作権はどこに帰属するのか、会社側が権利を得た際に社員にどんなインセンティブを与える必要があるかといったことについて、一定の場合においてあらかじめ会社でルール化しなければならないことになっています。会社はそれぞれの事情に基づいて、就業規則の一環としてこの職務発明規程等を作っていく必要があるのですが、そのことを熟知している社会保険労務士はそう多くないのではないでしょうか。また弁理士の側としても、通常は就業規則を作成したり修正するということは殆どないと思います。私はたまたま社会保険労務士と弁理士の両方の資格を取ったので、こうした規程の作成や修正などには対応できるようにしております。
さらに言えば、これらの規程は個々の発明やコンテンツに対するインセンティブだけではなく、業務として創造的な活動に従事する社員の評価、すなわち人事考課にどう連動しているかについてもよく考えておかないと、うまく機能していかなくなるのではと考えています。人事制度については、弁理士試験に合格する前から先輩社労士などに様々なスキームを学ばせてもらってきましたが、クリエイティブ部門に属する社員の評価はとても難しいと感じています。どういう実績をあげたらどれくらいの評価をしてもらえるのかといったことについて、公平性・透明性を最大限担保し、それぞれの社員に納得していただけるような人事評価制度の構築を目指しています。
相談に際しては、法人や個人事業主・フリーランス、あるいは雇用されている労働者と、どなたからのものでもお受けしています。相談者様の抱えている問題は様々ですし、決まった答えもありませんから、まずはできるだけ具体的にお話を聞かせていただくことを心がけています。
現在の活動の中心は東京都西東京市ですが、生産管理を専門とする技術士の夫が本拠地にしている静岡県御殿場市も「出張所」として稼働しています。若い頃は「一人旅の貧乏旅行」も好きで、もともとどこに行くのもまったく苦にならない性分なので、時間の都合さえつけば北海道でも沖縄でも喜んでお伺いすると思います。現在はZOOMなどのオンラインも普及していますので、基本的な情報をオンラインで共有した後、実際に現地に赴くのも効率的でしょう。
今後の社会保険労務士業界についてと先生の展望を教えてください。
一部の手続き業務がAI等に取って代わられたとしても、社会保険労務士や弁理士、その他の士業についても、生身の人間が行う実務は絶対に残るといます。ただ、我が国も景気がここまで低迷してしまっている現在、事業を営む法人や個人が、費用をかけて士業の専門家に依頼する余裕がどの程度あるのか、という不安が頭をよぎることがしばしばあります。私は過去に2年ほど業務委託で、中小企業や零細企業を対象に行政が無料で行っている、社労士の労務相談サービスの運営に携わっていた時期があり、そこに様々な依頼が入るのを見ていたのですが、単独で経営する中小企業や零細企業だけでなく、大企業の子会社などからも繰り返し依頼が入っていました。専門家に費用を支払って顧問契約するのはおろか、個別の案件をスポットで依頼したりするというゆとりのある会社もどんどん減っているのかもしれない、という印象も受けました。中には無料相談をきっかけに、依頼者側がじっくり相談に乗ってもらったほうが良いと考えられて、相談を担当された社労士との顧問契約につながったケースも数件ありましたが、社会全体として「コストをかけて専門家に相談したい」と思ってくれる顧客が増えないことには、士業界も手詰まりになってしまいます。私たち専門家のクライアントになっていただける法人や個人の経営者が、例えば保有する知的財産を発掘して活用することにより付加価値を上げ、増大させた利益が雇用する従業員をはじめ派遣や請負・業務委託など様々な形で事業に携わる方たちに還元され、消費行動にまわって経済を活発化させていく、といったようなサイクルを作っていければ、士業界を含めたあらゆる業種・業界の人たちがメリットを享受できるようになるし、そういう方向を目指していくべきなのではないかと思うんです。
企業の活性化、生産性の向上はもちろん、社内の風通しなど含めて職場環境を改善していきたいという方がいらっしゃったら気軽にお声がけいただきたいです。
また、私の夫は経営工学の技術士であり、他にも社会保険労務士や弁理士をはじめ、中小企業診断士や行政書士、弁護士、司法書士、税理士、公認会計士など他士業とのつながりも持っていますので、適宜連携を取りながら多様な課題に対応していきたいと考えています。法人や個人の事業主、あるいはフリーランスの方や雇用労働者の方に至るまで、労務と知財の両面から皆様利益につながるお手伝いをしていけたらと思っております。